フィレンツェ

フィレンツェ (Firenze) は、禁じられた森に棲んでいたケンタウルスです。1992年、森で殺されたユニコーンの血を吸う何者かからハリー・ポッターを救いました[1]。1996年にアルバス・ダンブルドアに招かれてホグワーツ占い学教師となり、人間のために働くことを群れへの裏切りとみなされて追放されました[2][3]

人物情報

名前: フィレンツェ(Firenze)
別名: 駄馬さん(復職したトレローニー先生による呼び名)[4]
性別: 男性
種: ケンタウルス

所属

職業: ホグワーツ魔法魔術学校 占い学教師(1996年‐)[2:1]

禁じられた森でのハリーの救出

1992年、罰則でハグリッドに連れられて禁じられた森に入ったハリーは、殺されたユニコーンのそばで、その血を吸うフードをかぶった影に出くわします。額の傷が焼けるように痛んでハリーが倒れかかったとき、蹄の音が近づき、何かがハリーの頭上を飛び越えて影に突進しました[1:1]

顔を上げると影は消えていて、一頭のケンタウルスが立っていました。その夜ハグリッドが森で言葉を交わしたロナンともベインとも違う、若いケンタウルスです。「私の名はフィレンツェだ」と名乗り、森はいま安全ではないから急いでハグリッドのところへ戻るようにと言って、ハリーを乗せるために前足を折って身を低くしました[1:2]

そこへロナンとベインが駆けつけます。ベインは、人間を背に乗せるとは恥を知らないのか、君はただのロバなのかとフィレンツェを怒鳴りつけ、ケンタウルスは予言されたことにだけ関心を持てばよい、森でさ迷う人間を追いかけて走り回るのが我々のすることか、と責めました[1:3]。フィレンツェは後足で立ち上がって言い返します[1:4]

『ハリー・ポッターと賢者の石』第15章「禁じられた森」

「あのユニコーンを見なかったのですか?」フィレンツェはベインに向かって声を荒げた。

「なぜ殺されたのか君にはわからないのですか? それとも惑星がその秘密を君には教えていないのですか? ベイン、僕はこの森に忍び寄るものに立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」

二人を残して木立に飛び込んだあと、フィレンツェはハリーに、ユニコーンの血が何に使われるかを説きました[1:5]

『ハリー・ポッターと賢者の石』第15章「禁じられた森」

「それはね、ユニコーンを殺すなんて非情きわまりないことだからなんです。これ以上失うものは何もない、しかも殺すことで自分の命の利益になる者だけが、そのような罪を犯す。ユニコーンの血は、たとえ死の淵にいる時だって命を長らえさせてくれる。でも恐ろしい代償を払わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無防備な生物を殺害するのだから、得られる命は完全な命ではない。その血が唇に触れた瞬間から、そのものは呪われた命を生きる、生きながらの死の命なのです」

続けて、その呪われた命をつなぐ間に、完全な力と強さを取り戻させ決して死なせないものを飲めるとしたらどうか、と問いかけ、いま学校に何が隠されているかをハリーに考えさせました。ハリーが賢者の石と命の水を思い当たり、力を取り戻す機会をうかがってきたのが誰かに行き着いてヴォルデモートの名を口にしかけたところで、ハグリッドとハーマイオニーが追いつきます[1:6]

『ハリー・ポッターと賢者の石』第15章「禁じられた森」

「幸運を祈りますよ、ハリー・ポッター。ケンタウルスでさえも惑星の読みを間違えたことがある。今回もそうなりますように」

ハリーはこのあと、ダンブルドアに事情を訴えようとしたとき、「ベインさえ止めなければ、フィレンツェが証言してくれるかもしれない」とロンとハーマイオニーに話しています[5]

占い学教師への就任と群れからの追放

1996年、シビル・トレローニードローレス・アンブリッジによって解雇されると、ダンブルドアはすでに新しい占い学教師を見つけてあると告げました。玄関ホールに忍び込んだ夜霧の中から蹄の音とともに現れたのがフィレンツェです[2:2]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第26章「過去と未来」

「フィレンツェじゃ」雷に打たれたようなアンブリッジに、ダンブルドアがにこやかに紹介した。「あなたも適任だと思われることじゃろう」

二日後の最初の授業で、フィレンツェは自分がもう森へ戻れないことを生徒に説明しました[3:1]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第27章「ケンタウルスと密告者」

「君たちの勇気が問題なのではありません」フィレンツェが言った。「私の立場の問題です。私はもはやあの森に戻ることができません。群れから追放されたのです」

理由を問われると、ダンブルドアのために働くことを承知したからだと答え、仲間はこれを種族への裏切りと見ている、と続けています[3:2]

追放されたあと、フィレンツェは群れの半数に襲われました。通りかかったハグリッドが割って入らなければ蹴り殺されていたことを、ハグリッドはのちにハリーとハーマイオニーに語っています[6]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第30章「グロウプ」

「ああ」ハグリッドが重苦しく言った。「怒ったなんてもんじゃねえ。烈火のごとくだ。俺が割って入らんかったら、連中はフィレンツェを蹴り殺してたな――」

最初の授業のとき、フィレンツェの胸にはうっすらと馬蹄形の打撲傷が残っていました。ハリーは、四年前に自分を背に乗せたフィレンツェを「ただのロバ」呼ばわりしたベインが蹴ったのではないかと考えています[3:3]

群れは、助けに入ったハグリッドからもケンタウルスの友情を取り上げ、森に近づくなと言い渡しました[6:1]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第30章「グロウプ」

「ハグリッド、君は介入するべきではなかった」マゴリアンが言った。「我々のやり方は、君たちとは違うし、我々の法律も違う。フィレンツェは仲間を裏切り、我々の名誉を貶めた」

マゴリアンは続けて、フィレンツェは「我々の知識と秘密を、ヒトに売りつけている」のであって、それほどの恥辱を回復する道はありえないと述べました。灰色のケンタウルスは「フィレンツェはヒトの奴隷になり下がった」と言い、ベインは学校の生徒であるハリーを指して「たぶん、すでに、裏切り者のフィレンツェの授業の恩恵を受けている」と吐き捨てています[6:2]。その学年の終わり、森でケンタウルスの群れに囲まれたハーマイオニーも、「我々全員が裏切り者のフィレンツェと同じわけではないのだ、人間の女の子!」と浴びせられています[7]

その後、病棟でハーマイオニーがフィレンツェは残るのかと尋ねたとき、ハリーは「戻っても、ほかのケンタウルスが受け入れないだろう?」と答えています[8]

占い学の授業

授業は、梯子階段を昇らずに済む十一番教室に移されました。床はふかふかと苔むして樹木が生え、天井や窓に葉が広がって、緑の光が斜めに射し込む森の空き地のような部屋です[3:4]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第27章「ケンタウルスと密告者」

「ダンブルドア先生のご厚意で、この教室が準備されました」生徒全員が落ち着いたところで、フィレンツェが言った。「私の棲息地に似せてあります。できれば禁じられた森で授業をしたかったのです。そこが――この月曜日までは――私の棲いでした……しかし、もはやそれはかないません」

ハグリッドが繁殖させたのかとディーンが尋ねたときには、頭をゆっくりと回してその顔を直視し、「ケンタウルスはヒト族の召し使いでも、慰み者でもない」と静かに答えました[3:5]

授業では、生徒を床に仰向けに寝かせて天井に浮かんだ星を観察させます。ケンタウルスは何世紀もかけて天体の動きの神秘を解き明かし、天空に未来が顔を覗かせる可能性があることを知った、というのが導入でした。トレローニーに教わった占星術をパーバティが持ち出すと、それは「ヒトのバカげた考えです」と切り捨て、些細な怪我や人間界の事故は広大な宇宙にとって蟻ほどの意味しかなく、惑星の動きに影響されるようなものではないと述べています[3:6]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第27章「ケンタウルスと密告者」

「シビル・トレローニーは『予見』したことがあるかもしれません。私にはわかりませんが」フィレンツェは話し続け、生徒の前を往ったり来たりしながら尻尾をシュッと振る音が、ハリーの耳に入った。「しかしあの方は、ヒトが予言と呼んでいる、自己満足の戯言に大方の時間を浪費している。私は、個人的なものや偏見を離れた、ケンタウルスの叡智を説明するためにここにいるのです。我々が空を眺めるのは、そこに時折記されている、邪悪なものや変化の大きな潮流を見るためです。我々がいま見ているものが何であるかがはっきりするまでに、十年もの歳月を要することがあります」

続けてフィレンツェは、ハリーの真上で輝く赤い星を指し、この十年は二つの戦争の合間のわずかな静けさにすぎず、戦いをもたらす火星が明るいのはまもなく再び戦いが起こることを示唆している、と説明しました。どのぐらいさし迫っているかは薬草や木の葉を燃やし、その炎と煙を読んで占うのだとして、生徒にセージやゼニアオイを燃やさせています[3:7]

誰も煙の中に印を見つけられなくても、フィレンツェは意に介しませんでした。ヒトはこういうことが得意だった例がなく、ケンタウルスも身につけるまでに長い年月がかかるのだと言い、いずれにせよ信用しすぎるのは愚かだ、ケンタウルスでさえ時には読み違えるのだから、と締めくくっています[3:8]

ハグリッドへの伝言

最初の授業のあと、フィレンツェはハリーを呼び止め、「ハグリッドがやろうとしていることは、うまくいきません。放棄するほうがいいのです」という忠告を託しました。自分で伝えられないのは追放の身だからで、いま森に近づくのは賢明ではないし、ハグリッドはこの上ケンタウルス同士の戦いまで抱え込む余裕はない、というのがその理由です[3:9]

何をしようとしているのかとハリーが尋ねると、フィレンツェは無表情に見返しました[3:10]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第27章「ケンタウルスと密告者」

「ハグリッドは最近、私にとてもよくしてくださった。それに、すべての生き物に対するあの人の愛情を、私はずっと尊敬していました。あの人の秘密を明かすような不実はしません。しかし、誰かがハグリッドの目を覚まさなければなりません。あの試みはうまくいきません。そう伝えてください、ハリー・ポッター。ではご機嫌よう」

伝言を受け取ったハグリッドは、「いいやつだ、フィレンツェは」と認めながらも、「だが、このことに関しちゃあ、あいつはなんにもわかってねえ」と取り合いませんでした[3:11]。ハリーが伝言の意味を知るのは、ハグリッドが森の奥に匿っていた巨人のグロウプを見せられたときです[6:3]

トレローニーとの分担

1996年9月、新学年の時間割を配るマクゴナガル先生に、パーバティ・パチルはフィレンツェがまだ占い学を教えるのかと尋ねました。答えは「今年は、トレローニー先生と二人でクラスを分担します」でした[9]

同年12月、ホラス・スラグホーンのパーティで、酔ったトレローニーはこの措置への不満をあらわにします[4:1]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第15章「破れぬ誓い」

「あたくしは、むしろ『駄馬さん』とお呼びしますけれどね。あたくしが学校に戻ったからには、ダンブルドア校長があんな馬を追い出してしまうだろうと、そう思いませんでしたこと? でも、違う……クラスを分けるなんて……侮辱ですわ、そうですとも、侮辱。ご存知かしら……」

翌年、この状態を動かせない事情をダンブルドアがハリーに説明しています。占い学は自分の予見を超えて厄介なことになっており、「フィレンツェに森に帰れとは言えぬ。追放の身じゃからのう」、かといってトレローニーに去れとも言えない、というものでした[10]

ダンブルドアの葬儀

1997年6月、ホグワーツで営まれたダンブルドアの葬儀に、フィレンツェは列席者に加わらず、湖のほとりに独りで立っていました[11]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第30章「白い墓」

ケンタウルスのフィレンツェが、衛兵のように湖の辺に立っている姿を目にしたアンブリッジは、ぎくりとして、そこからずっと離れた席までおたおたと走っていった。

J.K.ローリングは、アンブリッジが完全な人間でないものに恐怖を感じており、ハグリッドへの嫌悪もケンタウルスへの恐怖もそこから来ていると書いています[12]

ホグワーツの戦い

1998年5月、マクゴナガル先生が大広間で避難の指示を出したとき、その背後には学校に踏み止まった教師たちと駆けつけた不死鳥の騎士団のメンバーが立っていました。フィレンツェもその中にいます[13]

城に戻ったハリーが大広間に入ったとき、フィレンツェは負傷者の一人でした[14]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第33章「プリンスの物語」

フィレンツェも傷つき、脇腹からドクドクと血を流し、立つこともできずに体を震わせて横たわっていた。

ヴォルデモートが倒れたあと、寮ごとに分かれず誰もが入り混じった大広間の隅で、フィレンツェは横たわって回復しつつありました[15]。その後フィレンツェが森へ戻ったのか、追放が解けたのかは語られていません。

外見

プラチナ・ブロンドの髪と、驚くほど青い目を持っています。頭と胴は人間で、その下は黄金のパロミノの馬体です[2:3]。ハリーが初めて会ったとき、フィレンツェはロナンやベインより若く見えました。月明かりの下では、その髪が銀色の濃淡を作っていました[1:7]。尻尾は長い黄金色です[3:12]

登場・言及箇所

脚注


  1. 『ハリー・ポッターと賢者の石』第15章「禁じられた森」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第26章「過去と未来」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  3. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第27章「ケンタウルスと密告者」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  4. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第15章「破れぬ誓い」 ↩︎ ↩︎

  5. 『ハリー・ポッターと賢者の石』第16章「仕掛けられた罠」 ↩︎

  6. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第30章「グロウプ」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  7. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第33章「闘争と逃走」 ↩︎

  8. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第38章「二度目の戦いへ」 ↩︎

  9. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第9章「謎のプリンス」 ↩︎

  10. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第20章「ヴォルデモート卿の頼み」 ↩︎

  11. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第30章「白い墓」 ↩︎

  12. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「ドローレス・アンブリッジ」 ↩︎

  13. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第31章「ホグワーツの戦い」 ↩︎

  14. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第33章「プリンスの物語」 ↩︎

  15. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」 ↩︎